第245回 『英語教育の危機』

私は盆休みを利用して、表題の本を読みました。著者は鳥飼玖美子氏です。氏は、立教大学名誉教授で、NHK「ニュースで英会話」などの担当もされていた英語通の方です。氏はこの本を通じ、2021年以降の日本の英語教育に、強い不安があることを訴えています。

詳しくは本書に譲りますが、ポイントとなることは、「英語で英語を教えるような教育法や、英文法の指導を軽視し、コミュニケーション重視の英語教育は、子ども達の英語力を伸ばすことにはならない」という主張です。この本には、私自身もずっと感じていたことが、理路整然と述べられており、とても共感しました。

私は学問の基本の一面としては、「今獲得している知識をもとに、さらに上のステップに上ったり、未知のものを切り開いていける力を養えること」があると思います。例えば、英単語の発音獲得の基本メソッドとして「フォニックス」という理論があり、その中に「魔法のe」というルールがあります。

それは、例えば次のようなものです。pin という単語を分解すると、〔プ・イ・ン〕となり、それを合わせて〔ピン〕と発音します。ところが、 pin の後に e がつき、pine という単語になると、最後についている e がその前にある i という母音に魔法をかけ、 i〔イ〕はアルファベット読みの i〔アイ〕に変化します。すると pineは〔プ・アイ・ン〕となり、〔パイン〕と発音します。いかがでしょうか。「そんなルールは初耳だ」と驚かれる方も多いことでしょう。

このルールを知ると、例えば fine,five,nine,site などの単語は、例え初出であってもスラスラと発音することができます。もちろんこのルールは、cut → cute などにも適応します。
私はこのルールを知ったとき、「なぜ今までの英語教育では、このようなルールを教えてくれなかったのか?中学生のときから、このルールを知っていれば、英語の習得がもっと楽になったのに!」と、とても残念に思いました。(余談ですが、フォニックスについては、後日その思いを『アルファベットの名人』というテキストにして、皆様から少なからず、感謝の声をいただきました。)

英単語の読み方ひとつにしても、英単語をシャワーのように浴びせて、その発音を覚えさせようとするより、まずはフォニックスを教え、その後、それをもとに英単語を読ませて行く方が、より合理的で、生徒の負担も少なくて済むことでしょう。

これから始まる新しい英語教育は、そのような観点から考えると、いかがなものなのでしょうか。皆様の中には、もう既に来年度から使われる小学5・6年生用の英語の教科書をご覧になった方もおられることと思います。塾の中には、それをもとにした授業を展開していくところも多いことでしょう。私としては、その路線とは違った方向になりますが、自塾独自の英語教育を推進していくというのも、ひとつの道としてあるように思います。皆様のお考えはいかがでしょうか。