第519回 本田宗一郎さんの生き様
私が尊敬している人の一人に,本田宗一郎さんがいます。私は五十数年前の大学生の頃,アルバイト先の許可を得て,ホンダN360という車を使わせてもらっていました。その頃からホンダは私の大好きな会社でしたので,大喜びで乗っていました。
それはお客様の安心と安全ということを徹底的に追求するという社是に惚れ込んでいたからです。例えばこんな話があります。
車に使われているクランクシャフトなどの回転体は,絶えず振動しているので,それを締め付けているネジが緩んで外れると大事故につながります。それを防ぐためにホンダの車ではネジが緩んでもすぐにはトラブルを起こさない構造にしてあり,万一,脱落してもすぐには壊れないような工夫がしてあります。そして運転手が「何かおかしいぞ」と気付くくらいまでは,車がもつように設計してあります。
当時の車は,「エンジンがかかって走れさえすれば良い」というレベルで充分でした。その時代に,「もしネジが外れてもすぐには壊れない工夫がしてある」ということは素晴らしいことです。そこにも宗一郎さんの思想が見られることでしょう。
宗一郎さんは66歳で会社を引退しました。その後,宗一郎さんはどのように過ごされたのでしょうか。ゴルフ三昧の生活でも送られたのでしょうか。
全く違います。宗一郎さんは,日本中に700か所もあるホンダの販売店や工場などを回って,すべての従業員一人一人と握手をして感謝の言葉を述べられたそうです。宗一郎さんにはその他にもたくさんのエピソードがあり,その一つ一つに感動します。
宗一郎さんのお葬式にしても,「普通のお葬式では,渋滞を起こし,周りの迷惑になるかもしれない」ということで,9月2日から三日間,朝の10時から夕方の5時までの「お礼の会」として,会葬者の分散を図ったそうです。ちなみにその会に集まった方は6万2千人だったとのことです。
最後まで自分の思想を貫いた宗一郎さんの姿勢には,ただ感心するばかりです。