第513回 リハビリ現場の会話術

先日,日本講演新聞で一般社団法人日本エンカレッジ・リハビリテーション協会 代表理事である矢口拓宇氏の講演ダイジェスト文を読みました。氏は大学受験の勉強をしていた時,視力が急激に低下する病気に罹り,ほぼ失明されてしまいました。その後,視覚障害者のための大学に入り,理学療法士の免許を取得し,リハビリの仕事を始めました。リハビリには,患者さん自身の主体的な取り組みが欠かせません。そしてその意欲を引き出す力となるのがコミュニケーション能力です。

例えば,いつもリハビリをがんばっている患者さんが,「今日は歩きたくない。」とごねたとします。それに対し,「ああそうですか。では今日はやめておきましょう。」とか「そんなことではいつまでたっても歩けるようにはなりません。何とかやるべきです。」というような対応をしたとします。しかしこれでは問題は解決しません。

このような時のベストな対応は「そうなんですね。今日はあまり歩きたくない気分なのですね。」と,その気持ちに寄り添いつつ受け止め,次に「何かあったのですか?」などと会話を繋いでいくことです。すると患者さんは「実はここに来る前に娘とケンカしてしまってね…。」などと本音を話し出します。そしてしばらくすると,表情も和らいでいきます。ここで再度リハビリを勧めます。すると患者さんは「やはり今日も歩行練習をします。」などと態度が変化するようです。

氏は元々は口ベタだったようですが,ある時,リハビリではリハビリの技術もさることながら,会話術やコミュニケーション力が大切であることを痛感したそうです。その結果,その後はコミュニケーション能力の向上に力を注がれました。

その力を高める具体的な合言葉は「木戸に立てかけし衣食住」です。

「木」は(季節),「戸」は(道楽),「に」は(ニュース),「た」は(旅),「て」は(天気),「か」は(家族),「け」は(健康),「し」は(食事),「衣食住」は(衣服・食事・住まい)

確かにこのようなテーマを会話に盛り込んでいけば,会話が弾み,相手とのコミュニケーションも高まりそうですね。