第510回 国宝

これは最近封切られたある映画の題名です。この題名を見た時,私は「いったい何を題材にした映画だろう」と不思議に思ったまま気にも留めていませんでした。しかしある時,ある知人から「国宝は最近話題になっているとても良い映画だから,ぜひ見た方がいいよ」と勧められたため,重い腰を上げて観ることにしました。

内容は,任侠の家に生まれながらも,歌舞伎の世界に飛び込んだ男が,芸の道に人生を捧げ歌舞伎役者になるまでを描いたものです。映像は美しく,歌舞伎に縁のなかった私でも歌舞伎の世界の素晴らしさが感じられました。歌舞伎は私にとって遠い世界のものでしたが,歌舞伎役者の「芸」を追求するひたむきさや,その仕草の美しさに感動しました。

私はどちらかというと,絵画や芸術作品の鑑賞より,体を動かしたり文章を読んだりすることを好むため,自ら進んで芸術の世界を訪れることはありません。しかし,この映画を観て,そのような世界の素晴らしさを知ることができて,自分の視野が広がったと感じました。

余談ですが,一年半もの年月をかけて稽古に励み,ここまで見事に歌舞伎役者を演じ切った吉沢亮氏と横浜流星氏の努力にも感動しました。自分からは決して足を踏み入れようとはしなかった世界を紹介してくれた知人には感謝の気持ちで一杯です。

さて,もしこの文章を読んで「私もこの映画を観てみたい」と思った方に一つご忠告を。この映画の上映時間は何と「三時間」です。それだけ時間の拘束があることを覚悟して下さいね。私としては「途中でトイレに退出しやすい席を選んで予約する」など,万全の準備をして映画館に向かいました(笑)。