第404回 発想の転換の大切さ
昭和生まれの人ならご存知であろう,歌手の橋 幸夫さん。先日,橋さんが書かれた興味深い文章に出会い感動しました。
橋さんのお母さんは,80歳を超えて認知症になってしまいました。お母さんは徘徊や妄想がひどく,橋さんのご夫婦はその介護に追われました。特に認知症の後半期にはトイレがまったくわからなくなり,勝手におむつを外し,トイレをする場所を毎日変えるなどのことがおこり,その対応にとても苦労したそうです。このようなことから,認知症患者は一般的に,「ボケ老人」「病人」「かわいそう」「気の毒」などと思われ,マイナスイメージがつきまといます。
さてある日,橋さんの奥さんが次のように言いました。「おばあちゃんはもしかすると宇宙人なのかもしれないよ。だって人間の年齢でいうとおばあちゃんはもう『卒業生』でしょ。だけどきっと私たちに教え残しがいっぱいあるんだと思うの。だからボケたふりして宇宙人として私たちに何か教えようとしてくれているんじゃないかな。」と…。橋さんは「なるほど,そういうことか。だったら夜中の徘徊も,宇宙遊泳と考えたらいいのか。」などと,その考え方にいたく納得したそうです。
認知症になった人に対して,まわり中の人々がこのような考え方を持つと「この人は長い間立派に地球人を務め上げて宇宙人になりました。やがて宇宙に帰られることでしょう。それまでの期間,どうぞ好きにお過ごし下さい。私たちはできる限りのお世話をさせてもらいます。」という意識になれるのではないでしょうか。橋さんは,この宇宙人という考え方は,お母さんが残してくれた素晴らしいプレゼントだと思ったそうです。
長く生きた人は,やはり最後まで尊重されるべきでしょうし,そのような世の中をつくっていくことも大切なのでしょう。そして,毎日の生活をより楽しいものにしていくには,以上のような発想の転換も必要なのかもしれません。