第405回 老化は治療できるか?

一般的に老化というと,体がだんだん古くなってきて,体のいろいろな部分に故障が起き,ガンや病気を引き起こすもとになると考えられています。そして,遂にはそれらが死を招くことに繋がっていくのでしょう。

そもそも「老化する」とは,いったいどんな現象なのでしょうか。

まず,人間の肉体の最初は受精卵ひとつから始まります。そして,それが分裂し,さまざまに分化していろいろな器官をつくります。それぞれの器官の細胞は,50~60回ほど分裂したら,もうそれ以上は分裂しなくなります。このように,完全に活動を停止してしまった細胞を「老化細胞」といいます。これらの老化細胞は,本来であれば免疫細胞であるマクロファージなどが食べて除去してくれるのですが,体内のあちこちでは,それらが蓄積されてしまいます。そして,それらの老化細胞が炎症物質をつくり出し,臓器や皮膚などに悪さをします。つまり,老化とは老化細胞の蓄積が原因であると言えます。例えば年をとってくると皮膚が黒ずんだり,シワができますが,このような老化現象も老化細胞の蓄積と捉えることができます。

では少しでも老化を遅らせるにはどうしたらいいのでしょうか。その手掛かりになるのがGLS-1という酵素の働きを阻害する薬剤です。この薬剤を老齢のマウスに投与したところ,老化細胞の多くが除去され,老年病や老化が改善されました。この研究は,東京大学医科学研究所の中西真教授らの研究チームが2021年にアメリカの科学誌『サイエンス』を通じて発表したものです。今この薬はアメリカで抗がん剤のひとつとして開発が進められているようです。

私たちが今すぐにこの薬を入手し,老化防止に役立てるという訳にはいかないようですが,科学の進歩は日々,着々と進んでいるようです。なお,老化などのことについて詳しくお知りになりたい方は,『老化は治療できる!』中西真著〈宝島社新書〉を紐解くことをお勧めします。