第381回 警察官から女優さんへ

皆さんは「警察官」というと,どんなイメージを持ちますか。「違反して切符を切られた」とか,「職務質問をされた」などの経験がある方は,マイナスイメージをお持ちのことでしょう。警察官というのは,犯罪者や何かの問題がある人と対峙することが多く,そのため罵声や人格否定の言葉などを浴びることがよくあります。厳しい場面も多く,ストレスもかかり,メンタルが強くないと務まらない仕事です。

そのメンタルや体力を鍛えるために,警察学校にて大卒で6か月間,高卒で10か月間の訓練を受けます。そしてその後,警察官採用試験を受け,それに合格した人が一人前の警察官になれるのです。このような厳しい仕事にもかかわらず,警察官になった女性がいます。それが現在女優,交番(KOBAN)博士として活躍されている,田中杏樹(あんじゅ)さんです。田中さんは警察官時代に,何度か死と直面する場面にも出合い,その都度命の危険や恐怖を感じました。

それらの経験を通じ,次のようなことを学びました。「究極の選択を迫られたとき,『逃げたい自分』と『覚悟を決める自分』という2つの思いが湧く。でもそこで覚悟を決めることができれば,強い自分として生きることができる」
警察官という仕事は,いろいろな事件の場面に立ち向かい,恐怖心に打ち克ちながら,勇気を奮い立たせているという仕事のようです。そして,それが「メンタルの強さ」のようです。

田中さんは,鑑識課に異動してからほぼ毎日ご遺体を見てきました。それこそ自分と同い年の方や小さい子ども,年配の方など…。そうした方々を見ているうちに「自分もいつどうなるかわからない。時間は有限なんだ」と気付き,警察官を辞め,小さい頃からあこがれていた女優という職業を目指す決断をしました。
そして今では「交番(KOBAN)博士」として,自らの体験にまつわるエピソードを交えた講演活動や,芸能活動を行っています。私は日本講演新聞で,田中さんのいろいろな体験談を知りました。

田中さんはたくさんの死を見てきて,そしてそれと同じくらい残された遺族の悲しむ顔も見てきました。そのとき,皆さんが口にされるのは,「ああしておけばよかった」「こうなると分かっていたら…」という言葉だそうです。そのときになって初めて,いかにその人が大切な存在だったかに気付くそうです。だからこそ「大切な人を大切にして下さい。その人と日常を送れていることは,本当に幸せなことなのだと,改めて認識して欲しい」と,いつも講演などを通じ,力説しているとのことです。「大切な人と喧嘩したままになっていないか」「家族との会話が適当になっていないか」などと振り返ることも大切なようです。