第382回 ストレスと運動の関係

今私はストレスや脳について強い関心をもっています。もしあなたがサバンナで猛獣に出くわしたとします。すると,視床下部という部分からホルモンが出て,それが下垂体を刺激し,また別のホルモンにより副腎を刺激します。それを受けて副腎はコルチゾールというストレスホルモンを放出します。これによって,心臓の動悸が速くなります。そして,あなたはここで「闘争か逃走か」の判断に迫られることになります。

このとき,このストレスが扁桃体をさらに刺激し,制御不能の状態になってしまうと,パニック発作を起こしてしまい,生き延びるのは難しくなってしまうでしょう。このストレス反応を緩和して,興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルの一つが「海馬」です。扁桃体と海馬は常にバランスを保ちながら,お互いに綱引きをしています。要するに,扁桃体がアクセルで海馬がブレーキという関係です。

ただし,イライラがしょっちゅう起きていると,過度のコルチゾールにより,海馬の細胞が死んでしまいます。すると,ストレス反応に歯止めがきかなくなり,暴走を始めます。このような状態が「よく切れる人」を生み出すようです。実際に重いストレスや不安を抱えている人の脳を調べてみると,海馬が平均よりわずかに小さいようです。

では,ストレス物質である「コルチゾール」をコントロールするには,どうしたらいいのでしょうか。「それは運動です。」と言いたいところですが,運動も肉体に負荷をかける活動ですから,それも一種のストレスです。運動をすれば,心拍数や血圧が上昇するため,コルチゾールは増加します。しかし,運動が終われば,コルチゾールの分泌量は減り,運動前のレベルまで下がっていきます。

そして,定期的に運動を続けていると,運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも,コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなるようです。このようなことから,運動はストレスや不安から身を守る働きをする,大切な活動のようです。

では,どんな運動がストレス軽減のために効果的なのでしょうか。また,運動は脳を強化することができるのでしょうか。世の中には年をとるほど頭脳明晰になる人もいれば,その反対になってしまう人もいます。その分かれ道になるのも,「運動」のようです。このようなことに興味をおもちの方は,スウェーデンの精神科医,アンデシュ・ハンセン氏によって書かれた『運動脳』〈サンマーク出版〉をお読みになると,良いかもしれません。