第356回 常識とされるものを疑う心の大切さ

「皆さんの体の中にはいくつの細胞がありますか?」と質問すると,「それは約60兆個です」と答えられる人は,大変博識な方だと言えるでしょう。「では,その根拠はどこから来ていますか?」と問われると,その問いに答えられる人は少ないことでしょう。

その根拠は次の通りだと考えられます。人の細胞1個の重さは1ピコグラム(1兆分の1グラム)です。人の体重の平均が60キログラムだとすると,60㎏÷1ピコグラムで,60兆個となります。だから,人間のもつ細胞の個数は60兆個であると考えられます。これはこれでとても筋道だった考え方です。

さて,この常識に疑いをもったイタリアとオーストラリアの科学者グループがいます。このグループは過去200年間に発表された論文を調査し,体の組織にある細胞の数を調べ,解析しました。そしてそのグループは,2013年にある論文を発表しました。それによると,人の細胞の数は60兆個ではなく,37兆個であるという結論を出したそうです。

さてここで,次のように感じられる人もいることでしょう。「人の細胞の数は,60兆個ではなく,37兆個であると分かったことで,誰かが得するわけでもないし,どうでもいいことではないか。」しかし私たちは,この論文から「常識を鵜吞みにせず,常に疑いをもって問うことが大切である」ということを学べます。なお,この話は京都大学再生医科学研究所教授などをされていた永田和宏氏の講演のダイジェスト文で知ることができました。

私はこのダイジェスト文を読んでいて,似たような話を思い出しました。それはよく,経営者のスピーチなどで引き合いに出される次のような名言です。
「生き残る種とは,最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは変化に最も良く適応したものである」
この名言は,とても的を射た素晴らしいものだと思います。そしてこれを述べた人は,進化論で有名なダーウィンであると言われています。しかし,それは間違っているとも言われています。真偽はさておき,「何事も鵜吞みにするのは控えた方がいい」と言えるのかもしれません。