第344回 日本語と英語の違い
今年度から中1の英語が急に難しくなり,多くの生徒が戸惑っています。さらには,英語学習を既に放棄してしまった生徒も出てきているようです。そのような現状が顕著になるにつれ,当社の刊行物の中でもとりわけ「ステップ式英語1」がよく出ています。
それは,手前味噌になりますが,英語の発音や文法を一段一段ステップを踏みながら登るように,丁寧に学習できることが好評である理由のようです。また,それに並行して,「ろんりde国語」という教材も部数を伸ばしています。その教材では「主語と述語」のトレーニングを,徹底して行います。英語を理解するには「主語と述語」の関係をすばやく見つけることが必須です。そのような点に着目している塾様にその教材がよく採用されているようです。
さて,ここで話はガラッと変わりますが,皆様はAKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」の歌詞を覚えておられるでしょうか。それは次の通りです。
「♫あなたのことが好きなのに,私にまるで興味ない」
この歌詞に日本語の特徴がよく表れています。もし,これを英語風の日本語に翻訳するとしたら,きっとこんな風になるでしょう。
「私はあなたを愛している,しかし,あなたは私にまるで興味を抱かない」
この2つの文を比べると「日本語ではわかりきった主語はどんどん省くが,英語では『主語』と『動詞』を省くことはできず,その語順も決まっている」ということがわかります。
さて,次に日本語の「ありがとう」と英語の「Thank you!」を比べてみましょう。日本語の「ありがとう」のもともとの意味は「なかなかないことだ」ということから「(こんな体験は)めったにないことなのに,(それをわざわざして下さって)ありがとう」という感じで,この文には主語も動詞も出てきません。一方,英語の「(I)Thank you」は,「(私は)あなたの行為に感謝する」といった感じで,「私」も「あなた」も「動詞」も出てきます。このことから,英語は「(誰かが何かを)することば」であるのに対し,日本語は「(何らかの状況を)表すことが多いことば」と言えるでしょう。
そのような日本人の感性は,俵万智(たわらまち)さんの次の短歌にもよく表れています。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいる暖かさ
この短歌から皆さんはどのような印象を受けるでしょうか。英語のような「自分」と「相手」の対立ではなく,日本語特有の優しい「二人の共感」をお感じにならないでしょうか。
以上,述べましたように,日本語と英語では,大きな川で区切られた国同士のように,正反対と言えるような面が多くあります。生徒たちが英語をマスターするには,主語と述語のトレーニングをすることが大切です。そして2つの言語の大きな違いを認識することも大切です。よって,英語の指導者は折に触れ,生徒に日本語と英語の違いについても話してあげるのもよいと思います。なお,私は前述の話について,カナダで25年にわたり日本語教師をされてきた金谷武洋(かなやたけひろ)氏が書いた『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』〈飛鳥新社〉を参考にしました。この本には,日本語と英語に関するたくさんの情報が詰まっています。この本を読み終えて,これは英語を教える方にお勧めだなと感じました。