第274回 サル化する世界

私は先日、内田樹氏が書いた『サル化する世界』〈文藝春秋〉という本を読みました。氏は、思想家、武芸家、神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長などの肩書きを持つ、ユニークな方です。

この本を読むと、今の日本の問題点などがとてもよく理解できます。そして、氏がそれを深くえぐって分析していることに驚嘆します。例えば、皆さんは「ポピュリズム」という言葉をどのように理解しているでしょうか。私自身は、「民衆に迎合するということかな。何かわかりにくい言葉だな。」と感じていました。

内田氏は、この言葉を「『今さえよければ、自分さえよければそれでいい』という考え方をする人たちが主人公になった歴史的過程」ととらえています。私はそれを知って、「何てわかりやすい定義なのか」と感心してしまいました。例えば、この言葉を「日本の政治の中のかなり多くの決断が『ポピュリズム化』しているのではないか」などと使うと、「ポピュリズム」の意味がとても鮮明になります。

このように、今の世の中では、「今さえよければ、自分さえよければそれでいい」と思って進められていることが多いように思います。そのため、「将来のことを考えると、今は多少の痛みを伴っても、断固として次のようにすべきである」と主張し、それが実行されるということがなくなってきていると感じられます。

このCOVID-19の蔓延などは、そのような世界の風潮への警鐘になっているように思います。内田氏は、このような「ポピュリズム」の蔓延を、敢えて挑発的な「サル化」という言葉を使って表し、世の中に警鐘を発しているようです。

さて、では「ポピュリズム」の反対語は何でしょうか。氏は、「倫理」であると主張しています。「倫理」とは、「他者とともに生きる理法」です。自分中心でなく、「他者といかに仲良く生きるか」を追求することが大切なようです。「サル化」が進むと、「朝三暮四」を通り越して、ついには「朝七暮ゼロ」となり、そのとき人類は滅亡の危機に陥る恐れがある、と氏は訴えます。今の時代は、大きな分岐点にさしかかっているようです。