第272回 『書斎の鍵』

私は先日、あるきっかけから『書斎の鍵』喜多川泰 著〈現代書林〉という本を読みました。設定は2055年、主人公のお父さんの死去から物語が始まります。内容はとても興味深く、ぐんぐんとその文章に引き込まれていきます。

途中から、その物語が中断し、「書斎のすすめ」という文章が挟みこまれ、「読書の大切さ」が語られています。私はこの本の中で「書斎(読書)は心のお風呂である」という文章にとても心ひかれました。考えてみると、私達は体が汚れればお風呂に入って体を清潔にし、サッパリとして眠りにつきます。毎日お風呂に入らないと気が済まないという人も多いことでしょう。

では、私達の「心」はどうでしょうか。私達は日々、辛い体験や嫌な思い、居たたまれないニュースなどに心を痛めることも多くあります。そのとき、そのために汚れそうになる心を癒やしてくれる「お風呂」にその都度入っているでしょうか。人によっては、音楽などで疲れた心を癒やしていることでしょう。この本からは、「いろいろな本との出会いが『心のお風呂』の役割をし、たくさんの素晴らしい本と出会った人は、良い人生を送れる可能性が高い」ということが伝わってきます。また、読書は「自分のため」だけでなく、「大切な人のため」にも行うものであることもわかります。これに関連して、「一生懸命勉強することは、自分のためだけでなく、周りの人を幸せにすることにもつながる」ということも理解できます。

この本を読むと、塾の生徒から「先生、勉強は何のためにするのですか?」と問われたとき、「自分の将来のためである」という答だけでなく、それを超えた説明もできるのではないかと感じました。