第264回 男の子の育て方

開成高校は、東大合格者数38年連続1位に輝いている学校です。先日私は、その学校の校長先生で、東大の名誉教授もされている、柳沢幸雄氏が書いた「男の子の『自己肯定感』を高める育て方」〈実務教育出版〉という本を読みました。

その本には「なるほど!」と思う点がいくつも書かれており、とても参考になりました。例えば、「子は親の鏡」という言葉の解釈です。氏は「単なる『鏡』ではなく、ある部分を非常に『肥大化させて写す鏡』である」と捉えています。つまり、親が無意識に「私はたいした人間ではありません」などと、「謙遜の文化」をもって日々生活していたとすると、子どもはそれをさらに肥大化して受け継いでしまうとのことです。子どもがそのような考えに強く染まってしまえば、将来大きく伸びるであろう芽を、幼いうちから摘んでしまうことになります。

今の日本の世の中には、「謙遜の文化」がはびこっています。例えば「~させていただきます」という表現です。最近よく「大会に出場させていただいて」とか「この会議に出席させていただいて」などの言葉を耳にします。私は常日頃、「なぜ『大会に出場して』、『会議に出席して』と言わないのだろうか」と疑問に思っていましたが、氏は、そこに「日本人は集団との予定調和のつながりの中で生きている」ことがわかると述べています。このような風潮の中で子育てをしてしまうと、子どもは大きく伸びないようです。

ここで大切なことは、子どもに「自己肯定感」を持たせることのようです。そのためには、「物事のプラス面を見る、失敗してもチャレンジできる、人を褒めることができる」などの資質を親がしっかりと持ち、それを子育てに応用することのようです。例えば、次のようなシーンを考えるとよくわかります。ファミレスで5歳くらいの子が、ドリンクバーからジュースを自分で運んでいたとします。しかし、そのジュースをなみなみと注いでしまったために、歩いている途中でこぼしてしまいました。1人のお母さんは「もう!だから1人で取りに行くのは無理って言ったでしょ。お母さんが取ってきてあげるから、そこに座っていなさい!」と言いました。もう1人のお母さんは、店の人に謝った後、「じゃあどうしたらこぼさずに運べるか、一緒に考えてみよう」と言って、どのくらいまで注いだらよいかを教え、そのジュースを子どもに持たせ、無事に席まで運ばせました。子どもが「やった!自分1人でもできた。ぼくはすごい!」という「自己肯定感」を持てるようになるのは、後者の方です。

開成中学・高校では入学直後から、高3生から中1生までが混在するチームを作り、そのチームを中心にして、いろいろな行事を行うそうです。そして、その行事の中で「自己肯定感」を養ったり、「人は違って、みんないい」という感覚を養ったりしているそうです。詳しくは本書に譲りますが、この本は特に、「思春期の男の子との接し方に悩んでいる母親」が読まれると、とても参考になるのではないかと感じました。