第163回 人生の二期作と二毛作

私が尊敬している人物の一人には、伊能忠敬(ただたか)がいます。彼は江戸時代に精密な日本地図を作ったことで有名です。

彼は17歳のとき、豪商の家に婿入りしました。その後、ひたすら仕事に精を出し、その家の資産を10倍にしました。そして50歳で隠居し、大好きだった天文学を学ぶために江戸に出ました。江戸では天文学者・高橋至時(よしゆき)に弟子入りし、74歳で亡くなるまで、日本地図の製作に生涯を捧げました。

お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古(しげひこ)氏は「定年後、また同じような仕事をするのは『人生の二期作』のようなものだ」と述べています。二期作とは、同じ耕地で同じ作物を二度作ることです。外山氏は「人生は二期作より二毛作の方が面白い」とおっしゃっています。二毛作は、同じ耕地で季節ごとに種類の違う作物を作ることです。つまり、定年後に同じような仕事をするのもいいが、違った仕事や趣味を見つけ、それにチャレンジすることも素晴らしい、ということだと思います。

私自身は、塾の経営から教材の出版に軸足を移しました。塾経営も素晴らしい仕事ですが、教材の作成は、また別の意味で面白く、年齢を重ねても続けられるので、有り難い仕事です。また、教材の担当科目は、昔は理科や数学でしたが、現在は小学生の国語教材の開発に没頭しています。日本語を研究するにつれ、日本語の奥深さに興味を覚えます。また、趣味も30代から続けているテニスに加え、スキーなどにもはまっています。未知なる世界への好奇心、少年少女のもつ積極的な行動力をいつまでも持ち続けたいものです。