第154回 「運・鈍・根」か「根・鈍・運」か?

先日、かつての東京オリンピックの水泳に出場し、今はセントラルスポーツの会長になっている、後藤忠治氏の記事を読みました。氏は水泳部時代、精神修養のため、北鎌倉の円覚寺に座禅修行に行きました。

そのとき、管長の朝比奈宗源氏から「人生は運・鈍・根ではない。その逆の根・鈍・運である。だから、運をつかむために、じっくり腰を据えて愚直(鈍)に、根気強く(根)努力することが大切である」と教わりました。氏は、教えを愚直に守り続けた結果、スポーツクラブを全国210カ所に展開するなど、その事業を拡大することに成功しました。

また、後藤氏と同じように愚直に努力した結果、運をつかんだ例が、1988年ソウルオリンピックの男子100メートル背泳ぎで金メダルをとった鈴木大地氏(現スポーツ庁長官)です。当時、氏は優勝候補ではありませんでした。しかし、優勝を狙うためにある秘策を練り、それを徹底的に練習しました。それは、スタート後に水中にもぐりドルフィンキックで進む、「バサロ泳法」を徹底的に磨くことでした。そのために、バサロを息継ぎせず、100メートルも続ける練習を行ったそうです。そして決勝では、バサロを行う距離を25メートルから30メートルへと伸ばす作戦をとり、それが見事に成功して優勝しました。まさに鈍と根が運を引き寄せた結果です。

さて、私が驚いたのはそのバサロのことだけではありません。鈴木氏は決勝に向けて、爪を5ミリ近くも伸ばしていたそうです。氏は、最後のタッチで「その爪をはがしてもいい」という覚悟で臨んでいました。そして結果はというと、2位との差はわずか1.5センチだったそうです。私はこれを知って、「超一流の人は、そこまで考えそこまで覚悟して実行するのか。自分の今のしている努力や行動は、まだ甘いものだ」と感じました。