第57回 5万回斬られた男

私は「みやざき中央新聞」という、とても面白い新聞を定期的に読んでいます。その新聞の中で、編集長の水谷氏が福本清三さんという方の人生を紹介していました。

福本氏は時代劇における「斬られる役」で、大部屋俳優とよばれている役者さんの一人です。それらの人々は、毎朝撮影所の掲示板を見に行き、その日の役柄を知るそうです。その掲示板には例えば、「頭を割られた死体・・・福本」などとはり出されるそうです。そして当日、血だらけのカツラと着物をもらうとのことです。その後、それをつけて道ばたに倒れるというだけの役柄です。また真冬の撮影で、主役が斬られた後に主役の代わりに池の中に飛び込む、というような役も、うまくいくとまわってくるそうです。

このような役は、本番までに何度も川に飛び込むので、本番では歯がカチカチなったそうです。さらに、川の中では死体として身動きせず、じっとしていなければならず、とても大変な役のようです。しかし、もしそれに耐えられず、愚痴などこぼそうものなら、もう次の役は回ってこないとのことで、決して「寒い」とは口に出せなかったそうです。福本氏はその頃のことを「どんなにつらくても、そのつらさが面白かった。仕事ってカネじゃない。シンから惚れてないとできない」と述べています。

そんな福本氏が斬られた回数は、約5万回。本当に下積みの日々だったようです。しかし、その下積みの生活にも脚光を浴びる日がやってきます。福本氏が、人気番組『徹子の部屋』で「生きてエンディングを迎えたことが一度もない俳優」として紹介されたのです。それをきっかけとして、東映が「福本清三が主演の映画を作ろう」と考え、『太秦ライムライト』という映画が作られたそうです。もちろん主役は福本氏、そして脇役として松方弘樹さんや小林稔侍さんが華を添えています。そして、福本氏はカナダのファンタジア国際映画祭の最優秀男優賞に輝いたそうです。斬られ役でも何でも、とことん追求することの大切さを痛感しました。