第50回 仕事は契約か?
ヨーロッパ人にとっては、「仕事は契約で賃金は労働への対価だ」というような話を聞いたことがあります。英語のビジネス(business)は「忙しい」という意味からきていたり、フランス語で仕事を意味する「トラバーユ(travail)」という言葉は、「拷問する」という意味からきているとも聞きます。
その点、日本語の「働く」はどうでしょうか。「働く」は「はたの人を楽にする」ことだ、などと言われます。日本人にとって「働くこと」とは「契約ではなく、まわりの人に喜んでもらう行為だ」と言えるのではないでしょうか。
『古事記』や『日本書紀』に描かれている「高天原(たかまがはら)」は聖書に描かれている楽園(エデン)とはまるで違うそうです。高天原では、男の神様も女の神様も、楽しみながら何らかの仕事をしているそうです。また、日本最古の和歌集である『万葉集』には、名もなき庶民の歌から天皇、皇后の歌まで収められています。この中にも働くことを愛(め)でる歌がたくさんあるそうです。
私は性格的に趣味と仕事をバランスよくこなしているほうが、より楽しく感じます。今は社会の教材を作っていますが、例えそれをやめて趣味三昧の生活を送ったとしても、すぐ飽きてしまうことでしょう。それよりも、多くの子どもたちから、「このテキストのお陰で歴史が好きになった」などの声をもらう方がずっと楽しい毎日を送れると感じています。