第465回 キムチ部

皆さんは高校の部活動の一環として,全国唯一の「キムチ部」というクラブを持つ高校があるのをご存知でしょうか。キムチ部はキムチ同好会でもなく,キムチ愛好会でもない,れっきとした学校公認の正式な部活動です。ではキムチ部は一体何をする部活動なのでしょうか。キムチをみんなで食べて,それぞれの味を楽しむクラブなのでしょうか。

このクラブを持つ高校は,大阪偕星(かいせい)学園高等学校です。この学校の前身は,80年の歴史を持つ此花学院高等学校ですが,2009年頃から経営難に陥ったため,学習塾「開成教育セミナー」の太田明弘氏が理事長となり,立て直しをはかりました。その後,太田氏の息子さんである太田尚樹氏が経営に参加しました。尚樹氏が目指したのは「この学校にも『近大マグロ』に負けないようなブランドを立ち上げよう」ということでした。
それは学校からの帰り道のことでした。学校の近くにはコリアンタウンがあり,とても賑わっていました。そこでひらめいたのが,近代マグロならぬ「偕星キムチ」を作ろうということです。それを全国ブランドにして,たくさんの方の手に届くようにしたら面白いのではないかと思ったのです。
校長に伝えたところ,すぐにOKが出て2022年度からきちんと予算がつく部活動として発足することになりました。この突然の発表にもかかわらず,部員希望者や顧問希望の先生も次々と手を挙げ,「キムチを学び,キムチを作り,キムチで結ぶ」という合言葉の下に活動が始まりました。その後キムチ部はコリアンタウンとの交流などを通じ,おいしいキムチ作りを追求しました。その経緯は『大阪偕星学園キムチ部』長谷川晶一著〈KADOKAWA〉に詳述されていますので,ご興味がおありの方はご一読下さい。
このキムチ部の驚異的な努力が実り,驚くべき結果を生み出しました。2023年4月に,「全日本漬物グランプリ2023」における学生の部で最高の賞である「グランプリ」を獲得してしまったのです。上述の本を読むとわかりますが,たった一年間で最高の賞をとってしまったというこの驚くべき成果は,部員達の成長と,地域ぐるみの協力の結果です。この本からは,「何事も本気でやれば実現する」ということを強く実感させられました。