第445回 これから求められる教育の姿

皆様は,前横浜創英中学・高校の学校長である工藤勇一氏をご存知ですか。氏は2014年から6年間,東京都千代田区立麹町中学校で教育改革を断行し,大きな話題となった方です。千代田区では,私立校への進学を希望する家庭がほとんどで,麹町中の生徒のおよそ8割は,私立受験に失敗したり,せっかく進学した私立中に適応できず転校してきたりした生徒だったそうです。そのため,無気力な生徒や教室を飛び出す生徒など,校内はとても荒れていたようです。

一方,保護者は教育熱心で,学校に様々な要求が突きつけられていたので,教員はいつも緊張状態を強いられていました。そのような中で氏は宿題の全廃や定期テストの廃止など,6年間で400項目以上の改善・改革を行って学校を大きく変え,大成功を収めました。さて,その根底にはいったいどのような考え方があったのでしょうか。

その答えのヒントとなるものに,日本財団が17~19歳を対象にしたアンケート調査である「18歳の意識調査」があります。これは日本と様々な国,各1000人からの回答を集計したものです。それによると,日本は「自分を大人だと思いますか?」「自分は責任ある社会の一員だと思いますか?」などの質問に対して,軒並み最下位近くの結果だったとのことです。氏は,このような現状を作り出してきた原因は,日本の教育に問題があったと捉えています。例えば日本では,幼い頃から子どもたちにたくさん手をかけて育てる環境にあるがために,子どもたちは言われたことだけをこなすようになったり,自分で物事を考えなくなっていることがあげられます。

一方,それとは対照的なのがヨーロッパの国々です。そこでは子どもたちの主体性を重視する教育が行われています。具体的には「教え込む授業法」でなく,「教えず,自ら考えさせる授業法」です。麹町中学では,授業スタイルをヨーロッパのような方向にシフトさせるとともに,主体性を失い,やる気もなくなってしまった生徒たちを復活させるために,常に「君はどうしたい?支援して欲しいことはないかな?」と問いかけるよう心がけたとのことです。

このような現状を知ると,今後の塾の在り方も変えていく必要があるかもしれないと感じました。すなわち塾は,「学校の成績を上げ,合格させる場」であると同時に,「自立して社会でより良く,逞しく生き抜いていくための力をつけさせる場」というような方向性にシフトしていくことなどが必要となってくるように思うのですが,いかがでしょうか。