第441回 日本語の文のしくみ
私がわかりやすい文章を書こうとする時,いつも心がけていることは,日本語の文のしくみに則って書くということです。英語では,〔主語+動詞…。〕という文型が基本ですから,一般的に主語を先に出します。
では,日本語ではどうでしょうか。日本語では,主語が省略される場合もありますし,文の途中に来る場合もあるので,必ずしも主語が先頭に来るわけでもありません。よって,わかりやすい文章を書く上で大切なことは,主語を先に出すことではありません。
ここで大切になることは主語ではなく,「『文のテーマ』を先に出す」ということです。
・例えば,次の文の違いを考えてみましょう。
(A)昨日父が庭でカレーライスを作った。
(B)昨日庭で父がカレーライスを作った。
(C)昨日カレーライスを父が庭で作った。
この3つの文の違いは,語句の並び方が違うことだけですが,文のニュアンスが異なります。それは文の先頭に出る言葉(テーマ)によって違いがでるということです。例えば(A)の文なら,「ふつうカレーライスは母が作るのだが,昨日は父が作った」というようなニュアンスですし,(B)なら「ふつうカレーライスは台所などで作るのだが,昨日は庭で作った」というようなニュアンスになります。英語と違い日本語には「助詞」があるため,語順を変えることによって,このようなニュアンスの違いを出すことができます。この特徴を利用して,筆者が最も強調したいこと(テーマ)を先に出すように文を作れば,わかりやすい文章になるというわけです。
話は変わりますが,日本語を理解する上で,助詞である「は」と「が」の違いについても知っておくと便利です。例えば次の文章における「は」と「が」の使い方の違いをご存知ですか。
昔々あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ柴刈りに出かけました。
英語では「ある一つのりんご」をan apple,「(例の)特定のりんご」をthe appleというように,冠詞を使って「apple」の様子を表します。一方,日本語は「が」と「は」を使い分けることで,同様の意味を表します。つまり,初めに出た「が」は「あるおじいさんとおばあさん」ということを表現し,次に出た「は」は「そのおじいさん」ということを示しています。私たちはこのような「が」と「は」の使い分けを無意識に行っていますが,詳しく見てみると,とても興味深いものです。