第420回 最近の「お笑い」番組

私の幼少期はテレビのない時代でした。この時の楽しみは,ラジオから流れてくる落語や漫才などの話芸でした。テレビの時代になっても,このような「お笑い」は,人々に安らぎをもたらす貴重な文化でした。このときの芸人と視聴者との位置関係は次の通りです。

(1)テレビやラジオの向こう側には,落語家や漫才師といった芸人がいる。
(2)それを楽しむ視聴者である客に向かって,笑いを提供し,その対価としてギャラをもらう。

当時はこのような双方向のコミュニケーションの温かさが,ラジオにもテレビにもあり,それがその番組の魅力でした。

では,お笑いタレントと称する人がぞろぞろと出てくる昨今のバラエティー番組はどうでしょうか。私個人としてはあまり面白いとは思えないので,ほとんど見ることはありませんが,いったいその背景には何があるのでしょうか。

これを明快に解説しているのが,鷲田清一著『噛みきれない想い』〈角川学芸出版〉の中にあるエッセイです。その答えを簡単に解説すると,次の通りです。

(1)これらの番組では,おかしなことを言って笑わせる者も,それを聞いてゲラゲラ笑う者も,画面の向こう側にいる。
(2)彼らは落語や漫才といった「芸」を演じるわけではない。クイズであったり,世間を賑わせている話題を取り上げ,そこに誰かがツッコミを入れてみんなで笑うという構図である。
(3)よって,盛り上がっているのはスタジオの中だけで,客はそれを画面越しに覗いているに過ぎない。

私はこのような説明を読んで,「なるほど,だから面白いと感じないのか」と納得しました。このような番組なら,テレビ局側としては手間やお金をかけずに作れます。またお笑いタレントは「長い年月をかけて芸を磨き上げる」などの努力は抜きで,手軽にギャラを手にできます。どうも,こんな構図が最近の「お笑い」をつまらなくさせているようです。最近のお笑い芸人は,人気が出てからほどなくして消えていく人もおられるようですが,それはそれで仕方のないことかもしれません。