第393回 林真理子さんの新刊
皆さんは,日大の理事長になった林真理子さんのことをご存知のことでしょう。林さんは1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後,コピーライターとして活躍。1982年にエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーになりました。その後,直木賞,柴田錬三郎賞,吉川英治文学賞などを受賞しました。林さんのお母さんは戦後,小さな本屋さんをしながら子どもたちを育てました。そのため,林さんは小さい頃から本と共に育ちました。それが作家としての土台を築くきっかけになったようです。
林さんの年齢は今70代の後半で,円熟味を増していますが,デビュー当時はハチャメチャな印象で,何かとバッシングされることも多かったようです。また,出身がコピーライターですから,そのような職業の人間が小説を書いたということで,文壇からの風当たりもかなり強かったようです。そのような中で林さんはたくましく生き抜いてこられました。林さんは最近,『成熟スイッチ』〈講談社現代新書〉という本を出され,これまでの人生の中で出会った人のことや,良好な人間関係を保つための秘訣などを余すところなく披露されています。
例えば,レストランでの支払いやマナーについての蘊蓄などです。
皆さんが高級フレンチレストランに招待されたとします。そのときは,どんな服装をして行かれますか。人によっては「普段と変わらずカジュアルで良い」と捉える方もおられるでしょう。
林さんの答えは次の通りです。「あなたがレストランのオーナーだと思って考えて下さい。いつもの服でふらりと寄った人と,その日のためにおしゃれをして来た人。どちらが嬉しくて,どちらを大切にしますか」というものです。とても的を射ていますね。
また,最近の子どもたちや若い人の活字離れは,深刻を通り越して絶望的と感じられているようです。そんな彼らには次のような話をされるとのことです。「若い人は一人でいることを恐れ,もっぱらスマホで『つながり』を求めているようです。
本をいっぱい読んだからといって,立派な大人になって,いい会社に入れるとは限りません。でも本を読むと,大人になったときに一人でいることを恐れずにすむ人間になれます。読書の習慣があれば,一人でもカッコよく見えるし,退屈もしませんよ」と。
この本は,大学生だった頃は,人並外れてトロくさかったという林さんが,苦労を重ね,いろいろな人の助けによって今の立場まで這い上がってきた軌跡が,面白おかしく書かれています。私にとっては,これからの人生を生きる上で参考になることの多い本でした。