第376回 異次元への挑戦

ある塾関係の情報誌に「お薦めの本の紹介コーナー」が掲載されていました。読書というと,どうしても読む本のジャンルや著者が偏ってくるものです。私もその傾向があるため,そのコーナーの中で私が日頃読まない著者の本を選んで読んでみました。読んでみてとても驚きました。自分自身の知らない世界が,私の書く文章とは全く異なる文体で書かれていたからです。そしてその文章の中には,意味不明の語彙もかなり含まれていました。

例えば,それは次のような文章です。
「恐怖が消えて興味に目が輝きだしたパクパクさんに,ヒアルでデコを丸くきれいに見せる施術を朝受けてから出社してきたんですよと馬鹿丁寧に説明しつつも,すぐに後悔がおそってきた。不意を突かれたせいで全部ゲロってしまった。」

いかがでしょうか。
この著者は早稲田大学在学中の2004年『蹴りたい背中』で史上最年少19歳で芥川賞を受賞した綿矢りさ(わたや・りさ)さんです。本のタイトルは『嫌いなら呼ぶなよ』で,整形,SNSなど,今どきの風潮がリアルに描かれています。

著者が描くこのような世界は,住むところも環境も,年齢も全く違う私にとっては,「別世界」という感じでした。特に地方の人にとっては,「東京」の人の感覚や生活は,同じ日本人でありながら,外国人のように感じられるのではないかと思いました。読了して,何とも不思議な感覚にとらわれました。

「本」というものは,手軽に自分の知らない世界を知ることができ,そして疑似体験もできる貴重な存在であると改めて感じました。