第370回 恐るべき植物の知恵
皆さんは空き地などに生えている背の高いこのような植物をご存知のことと思います。
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そうです。この植物の名前はセイタカアワダチソウです。セイタカアワダチソウの原産地は北アメリカで,その原産地に生えているセイタカアワダチソウの姿は,野に咲く小さな花です。
その可憐とも言えるセイタカアワダチソウは,日本にやって来た途端,日本の植物を次々に駆逐して,日本中に蔓延していきました。
いったいなぜセイタカアワダチソウはこのように急速に日本中に蔓延していったのでしょうか。植物の世界の競争には,ルールもなければ道徳もなく,「何でもあり」です。セイタカアワダチソウの蔓延の秘密は,日本の植物が持っていない「化学兵器」を使用したからです。それは植物がつくり出す化学物質のことで,このような戦略をとることを「アレロパシー」と言います。セイタカアワダチソウはアレロパシーを利用して,周りの植物の発芽や成長を阻害したり,果ては他の雑草を枯らしてしまったりしました。
セイタカアワダチソウは外来種であるため,日本の植物にとっては,セイタカアワダチソウがつくり出すアレロパシー物質は未知のものであり,それに対する防衛力はゼロでした。このため,日本の植物は簡単にやられてしまったのです。しかし,それで終わりではありません。セイタカアワダチソウにとっては,これが「終わりの始まり」だったのです。
一面の草原がセイタカアワダチソウだらけになってしまうと,セイタカアワダチソウが出す有毒物質は,自らの発芽や成長をも蝕んでしまいます。ついにはセイタカアワダチソウは自家中毒を起こし,衰退していきました。最近では一時ほどのセイタカアワダチソウの大繁殖が見られないのは,以上のような原因が考えられます。
また,もう一つの理由としては,日本の植物も耐性を身につけてきたということもあげられます。
自然界はこのようにバランスによって成り立っています。そのバランスが崩れると,誰も生きていくことができなくなってしまいます。なお,この文章は以前にもご紹介した『雑草という戦略』稲垣栄洋著〈日本実業出版社〉をもとにして書いています。この本を読んで,植物界での出来事は,人間界にも通じるのかもしれないと感じました。