第361回 これらを英語でどう言うの?
次の日本語は英語でどう表現するのでしょうか。
適当 微妙 なんとなく お先に失礼します 一応 ご苦労様でした さすが 先輩 お疲れさま 後輩 単身赴任 よろしくお願いします
これらに共通する概念があります。それは「曖昧(あいまい)」ということです。日本では曖昧が美徳になっています。
一方,アメリカは曖昧より率直な表現が好きだから,その曖昧な日本語を表す言葉もありません。だから「適当」「なんとなく」「さすが」などの言葉は英語に訳せないというわけです。また「先輩」「後輩」も,あてはまる英語の言葉はありません。日本は上下関係を大事にする文化だから,「先輩」「後輩」という関係は存在しますが,英語では「仲間」とか「同僚」という言い方しかありません。つまり,英米の文化には「先輩・後輩」という概念がないのですね。
また「いただきます」という言葉も英語には訳せません。「いただきます」はLet’s eat.(さあ,食べましょう)とは違います。「いただきます」は『命をいただく』という意味で,命を捧げてくれた動植物に感謝の気持ちを表し,さらに食事を作ってくれた人に感謝の気持ちを表す表現です。
このように考えてくると,言葉とはものの見方(世界観)という土台の上に成り立っているようです。
一軒家に例えれば,屋根や壁,家具など,見える部分が文化で,その下にある土台が世界観という感じです。国の文化や人の価値観はすべて,世界観から生まれてくるもののようです。以上のような情報は,北九州市立大学准教授(応用言語学者)のアン・クレシーニ氏の講演ダイジェスト文を通じて知りました。氏は,とあるきっかけで来日しました。はじめは日本が好きになれず苦労したようですが,日本語を徹底して勉強し,次第に日本が大好きになっていったとのことです。大学での研究における専門は,和製英語です。例えば「ベビーカー」という和製英語があります。英語では「ストローラー」と言うのだそうですが,発音も難しく,意味もわかりにくいものです。そこで,日本人が意図的にベビーカーという言葉を作ったそうです。このように,日本人の誰もがその言葉の意味を想像できる和製英語は,彼女にとってとても魅力的に感じられる言葉だそうです。