第359回 赤ちゃんの不思議
私は何事に対しても興味を持ち,「なぜ?」「どうして?」といつも自問自答しています。先日は,「お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの心臓は,どうなっているのだろう?」と不思議に思いました。中学2年の理科の授業で学ぶように,心臓は肺に血液を送り出す肺動脈と,肺で酸素をいっぱい取り込んだ血液を体全体に送り出す大動脈があります。もちろん,胎児の心臓は拍動し,血液の循環を行っています。ここで不思議なことが1つあります。
胎児にとって必要となる栄養と酸素は,お母さんの胎盤とへその緒を通じて,胎児に供給されます。そして,不要となった二酸化炭素と老廃物は,胎盤を経てまたお母さんの血液に戻されます。
ですから胎児の心臓は,ただ単にお母さんから受け取った血液を,全身に送るだけの役目しかしません。胎児はお母さんのお腹の中の羊水の中にいるわけですから,肺で呼吸する必要がないわけです。では,胎児の肺や心臓はどうなっているのでしょうか。肺は羊水の中にいるときは使う必要がないわけですから,小さく折りたたまれて,出産後の肺呼吸のためにスタンバイしています。
では,心臓はどうなっているのでしょうか。ここに,精妙な仕掛けがあります。胎児の心臓には何と,穴が開いているのです。つまり,全身から戻ってきた血は肺に行かず,その穴を通ってそのまま大動脈に送られてしまうのです。道路に例えてみれば,市の中心部を通らず,市の周りを回って抜けてしまうバイパスのような感じです。ここでまた大きな疑問が生じます。では胎児が産道を通って産まれ出たとき,その穴はどうなるのかということです。赤ちゃんは産まれると「おぎゃー,おぎゃー」と元気な産声を上げます。このときに赤ちゃんは産声とともに空気を肺いっぱいに吸い込み,肺呼吸がオンとなります。
このときに不思議なことがおきます。心臓にあった例のバイパスの穴が急激に閉じてしまうのです。そしてその後は,体から戻ってきた血液は見事に肺に送られるというわけです。
何とも人間の体は不思議いっぱいですね。私はこのことをある雑誌を通じて知りました。その著者は,私が日頃から尊敬している,青山学院大学教授の福岡伸一氏です。私は氏の著作から多くのことを学んでいます。