第346回 ベイスターズの復活劇

横浜近郊にお住まいの方の中には,「横浜DeNAベイスターズ」のファンの方も多いことでしょう。ベイスターズの試合の来場者数は,2005年から2011年の期間では,年間およそ100万人前後でした。ところが,DeNAがオーナー会社に替わってからの2012年以降は徐々にお客さんが増え,2018年には球団史上初めて,来場者数が200万人を超えました。

ベイスターズの本拠地「横浜スタジアム」の座席稼働率は,過去最高の「97%」を達成し,これは12球団中1位でした。それまでは「最も人気がない球団」と言われたベイスターズが,なぜ「最もチケットを取りにくい球団」に生まれ変わったのでしょうか。
それには2014年からベイスターズの事業本部長になった元沢伸夫氏らの奮闘がありました。

成功のキーワードは「ボールパーク化」「地域密着」「クリエイティブ」の三つです。
その一つの「ボールパーク化」とは,「野球の試合を含めたすべてのエンターテインメント,球場で流す音楽や映像,グッズ,食べ物,チアリーダーなど,球場に来たお客さんに,とにかく何でも楽しんでもらおう」ということです。
例えば,夏には試合をしている球場の外で,巨大スクリーンに試合の様子を映しながら,椅子に腰かけ,飲んだり食べたりしながら楽しく観戦できるというような企画です。これを,なんと無料開放したのです。

また,試合終了後に観客にグラウンドに降りてもらって,バックスクリーンに映る30分の子ども向け映画を見てもらうというような企画も行いました。
この企画は,さっきまで試合が行われ,プロの選手たちがプレーしていたグラウンドに自分も立てているという非日常な体験ができると,とても好評でした。

また,試合がある日の平日の朝7時~9時まで球場を無料開放し,自由に野球を楽しんでもらうという企画も行いました。
夜にはプロの選手たちがその球場で実際に試合を行うわけですから,そんな場所で野球をやれるということでファンの人々はとても喜びました。
このような話は,元沢氏が講演した内容をまとめた「日本講演新聞」からのものですが,私はこれらの企画の内容に大変感動を覚えました。

私が小学生時代を送った群馬県前橋市にも野球のグラウンドがあり,そこでプロ野球のオープン戦などが行われ,私も時々それを見に行っていました。それを観戦しながら,子ども心に「こんな所に一度立って,野球ができたらどんなに楽しいことだろう」などと思った覚えがあります。
元沢氏らの企画はそんなファンの心に寄り添い,ファンの心をかきたてるものばかりで,そのような姿勢は大いに学ぶものがあると感じました。