第339回 タロとジロと第3のカラフト犬

皆さんは1957年(昭和32年)の第一次南極越冬隊の話はご存知でしょうか。それは,私がちょうど小学生の頃の話なので,平成生まれの方などはご存知ないかもしれません。高度成長のさなかの日本は,南極探検に乗り出し,極寒の南極での越冬に成功しました。そして翌年の2月に,次の年の越冬を第二次越冬隊に交代する手はずを整えました。

ところが天候不良のため,第二次越冬は中止されてしまいました。このとき,第二次越冬隊と行動をともにするはずだったカラフト犬15頭は,昭和基地に置き去りにされてしまいました。しかも基地の外に首輪をしたまま鎖につながれて…。そのときの日本では「何て残酷なことをするのか!せめて首輪だけでもはずしてあげるべきだったのではないのか?」などの意見が飛び交いました。

そしてその次の年の1月14日,第三次越冬隊が昭和基地に到着しました。すると何という奇跡でしょう。15頭の犬のうち,タロとジロという犬が生き延びていたのです。この事実には日本中が驚き,歓喜の声が渦巻きました。

さて,ここで誰もが「なぜこれから冬に向かうという南極で,鎖につながれた犬が食料も与えられないのに,生き延びられたのだ!」と思うことでしょう。

当時の日本では「その2匹は,何とか首輪を外して自由の身となり,ペンギンやアザラシを襲って食いつないでいたのではないか」などと推測されたようです。しかし,2018年になって,それは真実ではないと立証されました。さらに,タロとジロの生還には,彼らを助けた「第3の犬」の存在があったということがわかったのです。それにまつわるストーリーは,まるでミステリーのようです。私はその真実を『その犬の名を誰も知らない』嘉悦洋著〈小学館集英社プロダクション〉という本で知りました。

この本は嘉悦氏が,当時の越冬隊の犬の係だった北村泰一氏の記憶を引き出しつつ,まとめ上げたものです。この本はまるで推理小説のように,息つく暇もないほど最後まで一気に読んでしまいました。この本を読んで私は,犬の健気さや逞しさなど,「犬の素晴らしさ」に大いに感動しました。また,南極探検の厳しさも知ることができました。「第3の犬とは何か」「タロ,ジロはなぜ生き延びることができたのか」などについてお知りになりたい方は,ぜひこの本をご一読下さい。