第327回 海賊の片目の眼帯

皆さんにとって,アニメや映画で出てくる海賊たちのイメージはどのようなものでしょうか。
多分,帽子を被り,片目に眼帯をしている感じではないでしょうか。
では,なぜ海賊たちはいつも眼帯をしているのでしょうか。戦闘で目を傷めたからでしょうか。

私は医師の山本健人氏が書いた『すばらしい人体』〈ダイヤモンド社〉という本を読んで海賊の片目の眼帯について「なるほど!」と納得しました。
人は明るいところから急に暗いところに入ると,最初は何も見えません。
そして,その後徐々にものが見えるようになってきます。
このような現象は映画館に入るときなどに経験できます。
これを「暗順応」といい,この場合は,普段の見やすさを取り戻すためには30分くらいかかります。

逆のパターンとして,暗いところから明るいところに出ると,最初はまぶしくてものが見えにくいということもあります。
これは「明順応」といって,暗順応より反応が速く,5分ほどでもとの見やすさに戻せます。
このような目のはたらきを知っていると,例えば夜中にベッドから起き上がり,トイレに行くなどのときに役立ちます。
つまり,そのような場合では,次のような手順で行うのです。

(1)ベッドでは片目をつむって起き,そのままの状態で部屋や廊下の電気をつける。
(2)そのままの状態を維持してトイレを済ます。
(3)部屋に戻り電気を消したら,片目を開ける。

このようにしたら,明るさにすぐに反応する明順応と,ゆっくりとしか反応できない暗順応をうまく使い分けることができ,その成果を自ら体感することができます。

さていよいよ,海賊の片目の眼帯についてのお話です。
船は絶えず強い日差しが差し込む甲板などの明るい場所と,真っ暗な船倉から成り,その明暗は極端です。
そんななか,海賊が甲板に居たときに船倉で戦闘が始まったらどうなることでしょう。
両目を開けたままの状態なら,甲板から船倉に入った途端,目の前は真っ暗になります。
すると,船倉の入口で待ち構えていた敵に襲われ,あっさりと命を落とすことになりかねません。
このような時,眼帯をつけた海賊なら,そこでさっと眼帯をずらし,暗順応を利用し,視界を確保できます。
もちろん,この方法は戦闘の場面だけでなく,日常的に甲板と船倉を行き来する場面にも大いに役立ちます。

もし皆さんが塾関係者なら,理科の授業のときにでも,このようなエピソードを,生徒達に披露してみてはいかがでしょうか。