第313回 褒め褒めリレーのすすめ

私は先日、日本講演新聞で、理念と仕組み研究所代表、加藤八十司(やそじ)氏の「褒め褒めリレー」という内容の講演ダイジェスト文を読みました。
氏は企業の理念などについてのコンサルタントとして、多くの会社にかかわってきました。
例えば、自動車教習所の社長の「考え方」を変えただけで、急激に業績をⅤ字回復させたなどの実績をもっています。

ところで、塾や自動車教習所は「教育業」なのでしょうか。
Ⅴ字回復を遂げた1つの教習所である「武蔵境自動車教習所」は社長もスタッフもずっと、「自動車教習所は教育業」と捉えていました。
すると、どうしても社員は教習生に対し、「教えてあげる」という上から目線になりがちです。
加藤氏は自動車教習所のそういった風潮を「自動車教習所は教育業ではなくサービス業である」という考え方をもつように変革しました。
では、具体的に何をどう変えたのでしょうか。
それが「褒め褒めリレー」です。
そのやり方は次の通りです。

まず社員が二人一組のペアをつくります。
そして朝礼のときに、皆の前で相手を褒め合うのです。
例えば「○○さんは、この間、誰もいないのにゴミを拾っていました。その心がけが素晴らしいと思いました。」などです。
それに対して○○さんは「△△さんは、この間、年配の教習生の荷物を、入り口まで運んであげていました。その親切心は大いに見習いたいと思いました。」などと発表します。
このようなことを続けると、どういうことが起こるのでしょうか。

さて、相手を褒めるには、相手に対しての「観察力」が必須です。
つまり、自分に対する関心より、相手の行動を常日頃から観察する力を養う必要に迫られます。
この「褒め褒めリレー」を始めた頃は、皆相手を褒める点を探すことに苦労したようで、例えば、「笑顔がいい」とか、「服装のセンスがいい」とか、ありきたりの褒め言葉しか出なかったそうです。
しかし、日を重ねるごとに、スムーズで高度な褒め言葉がでるようになったそうです。

教育業は極端にいえば、ふんぞり返っていても「教官」でいられますが、「サービス業」として捉えればお客様をよく観察することが大切となります。
その前段階として、社員同士でこの褒め褒めリレーが有効なようです。
これをすることで、社員全体の「相手に関心をもつ力」や「観察力」がレベルアップしたそうです。
すると自然に教習生に対する観察力も向上し、最終的にそれが業績アップにつながっていきました。
私はこの話を読んで、自分が塾を経営していた頃のことを思い出し、恥ずかしくなりました。

塾生の中には、遠くから自転車ではるばる通ってきてくれる生徒もいれば、部活で疲れた体に鞭打って、眠いのをこらえて通塾してくれる生徒もいます。
当時の私は、そのような塾生の苦労や心意気に心を寄り添わすことが充分できていませんでした。
この褒め褒めリレーは、教育業に限らず、上司と部下、夫と妻、親と子の関係など、あらゆる場面に応用できることでしょう。
多くの人々が、自分のまわりの人々をよく観察し、互いに素晴らしい面を見つけて、それを言葉に出したり、感謝したりし合うことが習慣づけば、社会はもっともっと良くなることでしょう。