第292回 ペップトーク
先日私は、日本講演新聞に掲載されていた、トレーナーズスクエア(株)社長の岩崎由純氏の講演のダイジェスト文を読みました。氏は、トレーナーとして30年間スポーツの舞台裏で活躍されてきました。具体的な仕事としては、プロ選手の研修や、名門大学のアメフトのトレーナーなどです。
スポーツの世界では、試合前のロッカールームで監督やコーチなどが「さあ、いよいよ本番だ。力一杯頑張ってこい」などのショートスピーチをして選手達を送り出します。この「背中の一押しのスピーチ」を「ペップトーク」と言うそうです。選手が最高のプレーのために、日々技術や体力を磨くように、監督やコーチも選手の力を最大限引き出すために、このトークの技術を磨くのだそうです。
このトークは、より洗練された脳科学や心理学に基づいて、考え出されるとのことです。このペップトークには三つのステップがあります。一つ目は「事実を受け入れること」、二つ目は「捉え方を変換すること」、三つ目は「背中を一押しする言葉」です。
昨年のワールドカップラグビーで、日本代表は当時世界ランキング1位のアイルランドと対戦しました。その時の日本チームのジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、次のようなペップトークをしました。
「だれも我々が勝てるとは思っていない。接戦になると思ってもいない。君達がどれだけのハードワークをし、どれだけの犠牲を払ってきたかも知らない。(事実を受け入れる)。しかし、君達は自分達が準備できていることを知っている。私も君達が準備できていることを知っている。(捉え方の変換)。持っている力を全部出し切れ。さあ行ってこい(背中の一押し)」
いかがでしょうか。私は、「常識的には勝てる相手ではない」と事実を正直に示した後に、選手達に「でも、そういう考え方もあるね」と『納得』してもらうことが、このペップトークのポイントだと感じました。
私達の日常においても「~だから…となっても仕方がない」と考える人もおられることでしょう。この時、「~だから…となることはありうる。でも—とも考えられる。」と視点を変えれば道を開く勇気が湧くことでしょう。このペップトークは、私たちの日常にも役立ちそうです。