第249回 『生き物の死にざま』
私は、三連休を利用して上記の本を読みました。著者は稲垣栄洋氏,出版社は草思社です。氏は静岡大学大学院 農学研究科教授です。この本は、セミ,ハサミムシ,サケなどの29種の動物について書かれたエッセイ集です。それぞれのエッセイはとても読みやすく、動物への深い想いがいっぱいです。
例えば、サケについてのエッセイでは、川で生まれたサケが海へ下り、数年間海で暮らした後、生まれた場所を目指して最後の旅に出る様子がサケの立場に立った視点で書かれています。サケにとって、故郷への旅は死出の旅で、たくさんの危険に満ちたものです。例えば、途中にはサケを待ち受ける漁師たちもいるし、ダムなどの人工物もサケの進路を阻みます。なぜサケはそこまでの危険を冒して、生まれたところに戻るのでしょうか。やっとのことで川の上流にたどりついたメスのサケは、川底を掘って卵を産み、オスのサケはそれに精子をかけます。そして、メスはオスに守られながら、優しく卵に砂利をかけて産卵床を作ります。オスは、自らの命が続く限りメスを探し続け、自らの体力の限り繁殖行動を繰り返します。そして、オスのサケの命は尽きていきます。メスのサケは卵に覆い被さって卵を守りますが、やがて彼女も力尽き、死んでいきます。季節は巡り、春になると卵たちはかえり、稚魚が泳ぎ出します。なぜ、栄養の乏しい川で稚魚は生きられるのでしょうか。それは、息絶えたサケたちの死骸がえさとなり、プランクトンを発生させるからです。このようにして、サケという動物は「死んでからもなお、子どものために役に立とう」とプログラムされています。
さて、人間はどうでしょうか。親はサケと同じく、子どもを命懸けで育てたり守ったりするはずですが、そうでない親もいるようです。そのようなケースを見聞きすると、人間こそ、動物を見習う必要があるのではないかと感じたりします。