第503回 山登りの話

山登りが好きな方なら,「日本百名山」という言葉をご存知のことでしょう。日本百名山は,作家の深田久弥氏がご自身の登った全国の1000以上の山のなかから『山の品格・歴史・個性』を基準に100座を選定し,随筆として発表したもので,氏没後の今も,ひろく山愛好家の指針や目標になっています。また,「日本百高山」というリストもあります。これは,富士山を筆頭にして,日本の高い山を順に百座リストアップしたものです。

私の大学時代の友人の一人は信州の生まれで,幼少の頃から登山を趣味としていました。彼の目標は,日本百名山と百高山のすべてを踏破することでした。私は時々彼についていく形で,西日本にある百名山の制覇に随行させてもらいました。
その中でも特に,四国の剣山(1955m),石鎚山(1982m),屋久島の宮之浦岳(1936m)などの登山は素晴らしく,印象的でした。その中の一つである宮之浦岳の登頂は,二日がかりでした。登頂を果たした後には無人の山小屋に泊まりましたが,そこから見た星空の美しさは息を呑むほどのものでした。翌朝は,縄文杉が立っている場所を通過して,別の登山口まで戻るのですが,縄文杉への到着が早朝だったため,そこには登山者も観光客も誰一人としておらず,堂々たる太古の杉を友人と二人で独占できたのも良い思い出となりました。

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彼は一昨年,約70年かけて百高山,百名山の踏破を達成しました。
私はもうこれで彼の山登りは終了で,私にも登山ご同伴のお呼びがかからないだろうと高を括っていました。
ところが何と,彼はまた新しい目標を見つけ,私にそのための同行を打診してきたのです。

その目標とは「日本百霊山」の踏破です。
山は昔から神仏や精霊,天狗や怪異と人が出会う霊域です。この日本百霊山では,神話や伝説を訪ね,高峰から里山まで,日本全国の百山を集めたものです。早速去年は鬼伝説で有名な,京都の大江山に登ってきました。そして今年は二泊三日で奈良県の生駒(いこま)山,大和葛城(やまとかつらぎ)山,金剛(こんごう)山,金峰(きんぷ)山(吉野)の4つの山に登ってきました。それぞれの山には,葛城天神社,葛木神社,金峯神社などがあり,どの神社も霊験あらたかという感じでした。

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山に登っていると,いろいろなハプニングや驚きがあります。今回はその一つが「吉野の風景」でした。吉野には上千本,奥千本などと言われ,至る所におびただしい数の桜の木が植えられています。桜の開花時期にはさぞ見応えのある風景が見られることだろうと感じました。

同時に,「何と山深い場所なのだろう」ということにも驚きました。学校の歴史の授業では「後醍醐天皇は吉野に朝廷を開き南朝とした」と学びます。その記述だけでは「奈良の都のように開けたところなのだろう」と想像しがちです。ところが現地に行ってみると,「よくもこんな山奥に朝廷を作られたものだ。冬には雪に閉じ込められてしまうだろう,日々の生活や食事はさぞかし大変なことだったのではないか」と驚いてしまいました。
学校で学ぶ知識と,実際に現地に赴いて感じることの大きな落差を痛感した一日でした。