第169回 天ぷらは何料理?

皆さんがこんな質問を受けたとしたら、何とお答えになるでしょうか。私はずっと「天ぷらは油で揚げるのだから、揚げ料理に決まっているだろう」と思っていました。ところが、ある有名天ぷら店の職人さんの話を読んで、そうではないということを知りました。

では、何料理なのでしょうか。それは、「蒸し料理」です。その店は名古屋にあり、客席はたった6席です。しかも、食事のスタート時間が決まっていて、遅刻は厳禁です。客単価は5万円程です。

天ぷらは食材を160~200℃の油の中に入れて料理します。それは、瞬間勝負で、食材の水分を抜き、食材のうまみを濃厚にするためです。天ぷらの衣は、食材から出た水分を吸着する役目をします。そのため、その店では食材に合わせて何種類もの衣を用意します。例えば、エビに使う衣でサツマイモを揚げたとします。すると、水分が抜けすぎて、サツマイモがパサパサになってしまうのです。つまり、エビを揚げるための衣とサツマイモを揚げるための衣は別に作らねばならないのです。私はこのようなことを知って、とても驚きました。また、その店のこだわりを知って、感心しました。

その店が1日1回転で、しかも6人同時スタートなのは、天ぷらによって衣を次々に変えていかねばならないので、そうせざるをえないからです。また、その日のコースの値段は、「時価」で約5万円程なのも、市場でその日の最高級食材を仕入れるためだからだそうです。このような店の存在を知って、私は「一生に一度でいいから、そんな天ぷらを食べてみたいものだ」と思いました(笑)。