第492回 『シン読解力』

皆さんは2018年に発行され,世間の話題を呼んだ『AI vs 教科書が読めない子どもたち』という本をご存知ですか。著者は国立情報学研究所の教授などを務める新井紀子氏です。あれから7年,氏は表題の本を世に出されました。氏は大人から子どもまでの読解力を測定する「リーディングスキルテスト」(RST)というテストを開発し,日本人の「読解力」について大がかりな調査と分析を行っています。

一般的に,読解力を育成するには「本をたくさん読むこと」と思われています。しかし氏によれば,文学作品などを読むことによって,学校の教科書や社会に出てからのマニュアルを読める力が高められる訳ではないとのことです。氏はこの本の中で,後者の読解力を「シン読解力」と名付け,従来の読解力と区別しました。大まかに言うと「シン読解力」とは,「書いてあることを論理的に捉え,その文の内容を正確に理解する力」という感じです。

例えばその力とは,以下のような問題を解ける学力です。

〈問題〉次のAとBの文は同じか? 「同じである」「異なる」のうちから答えなさい。

(A)水星・金星・地球と火星は地球型惑星である。
(B)水星・金星・地球や火星は地球型惑星である。

答えは「異なる」です。この2つの文を比べると,その違いは助詞である「と」と「や」というたった1つの言葉だけです。その助詞の違いを捉えられているかどうかで,その人の読解力の深さがわかってしまうのです。ここで大切なことは,「と」も「や」も「ものごとを並べるときに使う言葉」であるが,「と」は並べたものですべてのとき使う言葉であるのに比べ,「や」は例示のときに使う言葉であるということを把握できているかどうかです。このような理由から(A)では「4つの惑星『だけが』地球型惑星である」ということになります。一方(B)では「地球型惑星には,例えばこの4つの惑星がある」となります。

氏はこのようなことまで見抜ける読解力を育てないと,学校の教科書を読み取ることはできないし,また社会に出たときに求められる力としても役立たないと述べています。

話は少しはずれますが,小社の国語教材の中に『ろんりde国語』というテキストがあります。このテキストでは主語・述語を正確に捉えたり,助詞や接続語のトレーニングを徹底して行い,論理的に思考力を育てます。近年このテキストを利用する塾様がジワジワと増えています。その背景には「学力を伸ばすには子どもたちのシン読解力を育てることが大切である」と考える方が増えているからではないかと感じています。