第455回 普通の授業,省かないで
2024年5月27日(月)の日本経済新聞に,「普通の授業,省かないで」というタイトルの記事が載りました。執筆者は塾の先生と思われる方です。先生は小学3年生の塾生(仮名,チヅル)を受け持っています。ある時,チヅルが先生のところに「時計の計算がわかりません」と訴えて来ました。チヅルはとても良くできる生徒で,先生は「そんなはずはない」と思いつつも,「2時34分の56分後は?」という問題を出してみました。するとチヅルの答えは「どう解けばよいかわからない」というものでした。そこで先生は,その場で手短に時計の問題に関する考え方や解き方を指導しました。するとチヅルはあっという間に色々な時計の問題を解き始めました。この光景を見て不思議に思った先生は「学校の算数の授業では,どんなことをしているの?」と聞くと,「授業は『1秒って何か』をクラスのみんなと話し合ったり,『時間があると何が便利か』を調べたりしています」と答えたそうです。チヅルのクラスは算数の学力別編成5クラスの一番上で,そこでは基本的な「時計の計算」を教えることは一切なく,それらはすべて宿題に回されているそうです。私はこのような指導方針をとっている公立の学校もあるのかと,とても驚きました。算数の授業なら,どんなクラスであってもまずは時計の計算の基本を教えた上で,その中で2時34分の56分後の求め方について,色々と考えさせたりするのが算数指導の王道だと感じます。いったい今の公の教育はどうなっているのでしょうか。
そのようなことに関連して,中学校においても「日常生活で2次関数がどう利用されているか,その例を探してきなさい」というような宿題が出されることもあるようです。算数や数学を学ぶ本来の目的は「論理的思考力を養う」とか「筋道立った考え方を身につける」ことにあると思います。それらをないがしろにして,応用的なことに時間を費やすような教育はいかがなものかと思わざるを得ません。