第353回 日本一強い少年野球チームを作る

皆さんが地域の少年野球チームの監督になったとします。その場合,どのようなポリシーで運営し,どんな練習法をとるでしょうか。ある人は「野球を通じて,礼儀作法を教える」とか,「根性を鍛える」などを土台にするかもしれません。例えば,バットやグラブはきちんと整理整頓するとか,ランニングをするときは,足並みを揃えて走らせるなどを基本にする方もおられるでしょう。

また,練習方法としては,バットの素振りを何回もさせ,自宅での素振りも推奨するという方もおられるかもしれません。さらに「投げる,捕る」においては,「とりあえずキャッチボールをする」を最初の練習にする方もおられるでしょう。私は野球については門外漢なので,以上のような規律や練習は,当たり前のことだと思っていました。

一方,このような方法を一から検討し直し,明るく楽しい雰囲気で,少年野球日本一を獲得したチームもあります。それが滋賀県にある多賀少年野球クラブです。そのクラブの監督は辻正人氏で,そのクラブは2016年に全国スポーツ少年団大会,2018年,2019年に全日本学童大会(マクドナルド杯)二連覇などを成し遂げています。

氏は1988年に同クラブを結成しましたが,2011年までスポ根丸出しの指導方法をとっていました。しかし,その後イタリアでの少年野球の練習風景に衝撃を受けて,ガラッとその方針を変更しました。例えば,足を揃えて走るとか,道具をきれいに並べるなどは一切やめました。練習に遅れてくるのでも構わないことにしました。それは「野球をしに来ているのだから,時間までに来るかどうかは野球とは関係ない」という考えです。また,「挨拶とか整理整頓は,野球とは別のものだから,それは各ご家庭でご指導下さい」という方針にしました。このような改革を推し進めた結果,子どもたちは何をするにしても笑顔でキャッキャと楽しそうに野球に取り組むようになりました。

また,喜ぶレベルを下げる改革も行いました。具体的には「フルスイングしただけで,みんなで褒め合う」とか,「凡打でも全力で一塁まで走ったら,それもみんなで褒め称えよう」などです。こうすると,誰でも1打席で最低2回は褒められることになります。また緊張する試合のときでも,のびのびと振ることができます。その結果,むしろ本番の試合のときに,長打がドンドン出るようになりました。

練習方法も工夫されています。例えば,小学生のうちに素振りをやりすぎると,特に故障のリスクが多いので,「家での素振りはやらない」というルールになっています。練習する方法も科学的で,ボールを捕る練習でも「逃げたらアカン!」「体の正面で捕れ!」ではなく,「逃げながら捕る」ことから教えます。

以上,記載したことは『多賀少年野球クラブに学びてぇ!』藤田憲右著〈インプレス〉という本を参考にしています。この本は,少年野球において,日本一のチームになるためのヒントが満載です。そして,ここに書かれていることは,塾の運営などにも役に立つと感じました。なお,この本は塾の経営と大学野球チームの監督を両立されておられた先生のフェイスブックを通じて知りました。今その先生は,塾経営から離れておられますが,その塾の繁栄の土台には,以上のようなチーム作りの手法も,参考にされていたのかもしれません。