第335回 土偶を読む

私は先日,ある人の文章を読んでいると,その中で紹介されている『土偶を読む』という本に大変興味を抱きました。
皆さんは土偶は何のために,何をモチーフとして作られたのかご存知でしょうか。
土偶の研究は,明治時代に始まりましたが,今に至るまで実に130年以上も未解決のままです。
歴史の本などを読むと「土偶は豊穣の象徴である妊娠女性を表しています」などと書かれています。
果たしてその説は単なる推測ではなく,科学的根拠や証拠に基づいたものなのでしょうか。

こんな素朴な疑問に立脚して,土偶の本質を追求した人がいます。
それが独立研究者として土偶の研究に打ち込み,見事にその問題を納得のいく証拠を挙げつつ,筋道立った理論で,解き明かした竹倉史人(ふみと)氏です。

さて,これを読んでいる方は,「では結論として,土偶は一体何を目的に,何をモチーフとして作られたのか」ということをお知りになりたいことでしょう。

それは著者に配慮するためもあり,ここでは残念ながらお伝えすることはできません。
ご興味のある方は著者を応援する意味でも,本書『土偶を読む』竹倉史人著〈晶文社〉を購入し,お読み下さい。
私はこの本を読んで「単なる想像や推測ではなく,真理の追求のためには,ここまでするのか」と感動しました。
特に科学系と違い,人文系ではどうしても想像や推測が入りがちです。

一方,竹倉氏は,あるヒントをきっかけにして,ある時は縄文人になりきって自分の仮説の証拠を集めるために,全国を駆け巡っています。
また氏は,確固とした地位のある大学教授でもなく,一介の研究者です。
そのため,世間からは異端児扱いもされたようです。
そして,成果が得られているのに,しかるべき場所で発表もできないということもあったようです。

氏はそのような逆風の中でも,コツコツと研究を続け2019年秋に東工大で講演会を開きました。
そして,そこでやっと多くの支持者を獲得しました。
その説が学界に広く支持されるようになれば,これから何年か何十年がすると,土偶についての教科書の記述も変わるかもしれません。
私はこの本を通じ,真理を追求する氏の飽くなき探求心や,仮説を証拠立てるための地道な姿勢を感じとり,大きな感動を得ることができました。