第299回 ジーンズの中にある「わび・さび」

私は先日『日本講演新聞』で、(公財)阪急文化財団 理事・館長 仙海義之氏の講演ダイジェスト文を読みました。氏の話は「わび」と「さび」についてで、「ジーンズの中にも『わび・さび』が見られる」というものでした。それを読んで私は、「なるほど!」と思いました。さて皆様は、「わび」と「さび」の違いをどう捉えておられますか。

「わび」は、余白の多い簡略な筆遣いの絵とか、「不完全ではあるが、他の物にはない面白さを感じさせる」という世界だそうです。一方「さび」は、「時を経て、色味や肌合いが変質した素材の無常」のことで、「古さの中にある落ち着いた味わい」だそうです。

「わび」を理解するには、「侘しい」という言葉が手がかりになるようです。「侘しい」は「侘しい山奥の暮らし」のように使います。物がたくさん溢れている生活よりも、華美でなくても、一つひとつ気に入った大事なものに囲まれた、質素な生活を積極的に愉しむという美意識が「わび」のようです。

次に、「さび」を理解するには、「寂しい」という言葉が手がかりになるようです。至る所でシャッターが閉じている状態の商店街を「寂れた商店街」などといいます。時間が経ち、人や物が失せて空しく静かになったり、豊かで華やかだったものが、老いて枯れていったりするような移ろいが「さび」の美意識のようです。「わび」,「さび」というと、「若い人には関係がない」ように思われますが、実はそうではないと知って、私は大変驚きました。「穴があいたジーンズ」が正に「わび」,「さび」の世界だそうです。

「穴があいたジーンズ」は、見方によっては「壊れた衣服」です。しかし、それが個性になり、「自分だけのジーンズ」になります。正にそれこそが、オンリーワンを愉しむ「わび」の世界です。

また、ジーンズに使われているデニム生地は、洗うと色落ちして経年変化します。しかし、穿きこんでいくと、自分の体型にフィットした味わいのあるものになっていきます。これが「さび」の美意識です。

このようにして見ると、「穴があいたジーンズ」を穿いている若い人は、ちゃんと「わび」,「さび」の美意識を理解していることがわかります。翻って考えてみて、私は年齢的には「わび」,「さび」の世代です。今後、少しずつでも服装や外見、人間性や人格など、「わび」,「さび」を意識した魅力的な人間を目指したいものです。