第286回 サービスとホスピタリティ
私は先日、元リッツ・カールトン(以下「リッツ」と略)日本支社長であった高野登氏の講演のダイジェスト文を読みました。そこでは、サービスとホスピタリティの違いについて書かれていました。
例えば、あるレストランが客寄せのために食後のコーヒーを一杯無料にしたとします。これはサービスです。しかし、そのサービスをやめてしまうと、客から「えっ、もう無料サービスはないの?」と言われてしまいます。店側が一旦サービスの罠にはまってしまうと、やめられなくなりコストが膨らんでいきます。
ではホスピタリティはどうでしょうか。例えば、リッツではこんなことがよくあるようです。
ある宿泊のお客様がリッツ内の、あるレストランのコース料理を注文しました。コース料理なので、フォークとナイフは事前にセットされています。その方は左利きなので、「通常の配置では使いづらいな」と思い、ナイフとフォークの配置を入れ替えてから食事されたそうです。その後、何ヶ月かたって、再びその方がリッツに泊まり、同じレストランに来られたそうです。するとウェイターさんが、その方の椅子を引きながらこう言ったそうです。
「前回のお食事の様子を拝見しておりまして、勝手ながらナイフとフォークの配置を入れ替えさせて頂きました。よろしいでしょうか?」
その方は驚きながら、ニコッと笑い、楽しんで食事をし、満足げに帰られたそうです。
これがホスピタリティだそうで、ホスピタリティの提供とは、その人が持つ感性に訴えるということです。これを読んでいて、私も同じような経験をしていることに気付きました。自宅の近所には、いくつか居酒屋がありますが、行く店はなぜか決まっています。そこで私はいつもビールの後に芋焼酎のお湯割りを頼みます。その時必ず冷水も注文し、水とお湯割りを交互に飲みます。ささいなことかもしれませんが、そこでは、私が焼酎のお湯割りを頼むと、焼酎と共に冷水が運ばれてきます。私は、夕食はいつも自宅で食べているので、その居酒屋には数ヶ月に1度くらいしか行きません。それでも、きちんと私の飲酒スタイルを覚えてくれています。そこで、私は常連さんになった気分で満足しています。
そのお店は、お馴染みさんばかり集めているような経営スタイルなので、このコロナ騒動でもびくともしません。私はホスピタリティの根本は「よく相手の人を観察すること」と「『人の喜び 我が喜び』の精神」にあると思います。
ホスピタリティの発揮は大きな費用がかかるわけでもなく、各人の心掛け次第だと思います。塾内でも企業内でも、絶えず、「サービスでなくホスピタリティ」を心掛けたいものです。