第48回 プロ野球界のコーチ

先日ある小冊子で、元プロ野球選手 森本稀哲氏(以下ヒチョリさん)の講演内容を読みました。その中で驚いたことがあります。それは、日本の野球界のトップに位置するプロ野球界ですら、「コーチング」をきちんと学び、それを実践しているコーチはあまりいないということです。

プロ野球界におけるコーチは、同じ球団でプレーをしていたからとか、人脈のつながりなどで抜擢されることが多いそうです。そうすると、ほとんどのコーチは、現役時代に自分が接してきたコーチをお手本にするそうです。そして不思議なことに、現役時代に「自分がやられて嫌だった」ことまで真似してしまうのだそうです。

例えば、試合中に選手がミスした場合、それを皆の前で厳しく叱るなどです。これは、教育の世界でもよくあることですが、ミスして一番気落ちし、反省しているのは本人です。そのような状態の時に、追い打ちをかけるように叱るのは、百害あって一理なしなのは自明です。

このようなことは、塾現場でもよくあることで、塾の先生方もよくご存知のことだと思います。塾の生徒、企業に入りたての新人、プロ野球選手にしても、ミスをして叱られることを恐れたりすれば、伸び伸びとした気持ちになれず、充分力を発揮できないことでしょう。

ヒチョリさんが日本ハムファイターズにいた頃の監督は、トレイ・ヒルマン氏だったそうです。ある日、ヒルマン監督はヒチョリさんに向かって、「ヒチョリ、明日はスタメンでいくぞ。明日やることはたった一つ、元気を出して伸び伸びやることだ」と告げたそうです。ヒチョリさんは元気に伸び伸びやったにもかかわらず、結果は4打席ノーヒットでした。そこで、「もう明日はない」と思っていたそうです。ところが、次の日もスタメンで驚いたそうです。その日、監督は、「ヒチョリ、昨日は善かったぞ。今日も元気を出してやってこい」と言ったそうです。その言葉にヒチョリさんは元気百倍となり、何とその日は2本のヒットを打ったそうです。

ヒチョリさんはこのような体験を踏まえ、良いコーチの条件は次のようなものだと述べています。
1.選手をよく観察し、選手の変化に気付く。
2.叱るのではなく、見守り、勇気づける。そして、選手が発揮できていない残り半分の力を引き出してあげる。

私は以上の二点にとても感心しました。このようなコーチングの知識や技術は、プロ野球界はもとより、教育現場でも職場でも、とても大切なことなのではないでしょうか。